最近宇宙科学研究所(宇宙研)のホームページが更新され、いくつかの新しいプロジェクトが追加されました。今回はその中から「Hera」を紹介したいと思います。Heraは欧州宇宙機関が主導する小惑星探査機です。これまで日本は小惑星探査機はやぶさ、はやぶさ2を打ち上げましたが、Heraはこれらに続くことになります。宇宙研のホームページでは「二重小惑星探査機」と紹介されていますが、これはHeraの目的地がディディモスとディモルフォスという2つの小惑星から構成されているためです。2つのうち大きい方の小惑星ディディモスの周りを小さい衛星ディモルフォスが回っています。
実はHeraが調べる小惑星ディモルフォスには、NASAの探査機「DART」がHeraの到着より前に衝突する予定です。DARTは小惑星に接近後、すぐに衝突してしまうため、じっくり観測を行う時間がありません。また衝突が小惑星に及ぼした影響を長く調査することもできません。そこでDARTの衝突の後にHeraを送り、衝突の影響を調べます。Heraはいわば事件現場の鑑識を担っていると言えるでしょう。
JAXAはHeraの赤外線カメラTIRI(Thermal InfraRed Imagerの略)の開発・運用を行います。この装置は、はやぶさ2に搭載された同様の赤外線カメラをベースとしています。またHeraとの通信にJAXAの美笹深宇宙探査用地上局が使われる予定です。
TIRIを使うことにより、小惑星の温度分布の画像、いわゆるサーモグラフィを作ることができます。TIRIが小惑星の表層を撮影すると、その温度が均一ではなく、周囲より温度が高い場所・低い場所が捉えられると予想されています。この温度のムラは構成物質の種類や密度の違いによって生じます。これらの画像を調べることで、小惑星表面の地形や、DARTの衝突クレーターから物質が飛び散った様子などが分かります。
小惑星はいくつかの種類に分類されますが、ディディモスとディモルフォスはS型という種類の小惑星です。初代はやぶさが探査したイトカワはS型、はやぶさ2が探査したリュウグウはC型です。すでにはやぶさ2がC型小惑星の全体像を赤外線カメラで調べていますが、初代はやぶさには赤外線カメラが備わっていなかったため、S型小惑星を赤外線カメラで捉えるのはHeraが初めてになります。
Heraは2024年に打ち上がり、ディディモスとディモルフォスには2026年に到着する予定です。
(文: 諏訪春樹)
もっと知るには:
・宇宙科学研究所 二重小惑星探査計画 「Hera」
・Heraミッションホームページ
・Thermal Infrared and Multiband Imaging to Investigate S-type Binary Asteroid Didymos and Dimorphos in Hera Mission